みりんの使い方、知ってますか? 効果と活用法を知って料理上手に!
どこのご家庭にもある調味料、味醂(みりん)。煮物や炒め物、焼き魚にと幅広いレシピで登場します。特に、日本人が大好きな照り焼きには欠かせない調味料です。
また、近年は砂糖を減らしてみりんで甘みをつけたり、はたまたみりんそのものをドリンクとして味わったり…と楽しみかたも増えてきました。
大手みりんメーカーでも、みりんの甘みを活かしたレシピコンテストを開催したり、みりんを使ったスイーツレシピを紹介したりと、注目を集めています。
そこで今回は、みりんの使い方や役割、効果に注目。みりんをこれまで以上に活用できること間違いなしです!
”みりん”とは?
普段の料理で私たちが当たり前に使っている”みりん”とは、そもそもどんな調味料なのでしょうか。
みりんの歴史
文献を読み解くと、みりんが日本でつくられるようになったのは戦国時代、1663年の大阪天満粉川屋と記されています。
一方で中国から伝わったという説もあり「密淋(ミイリン)」や「密酒」と呼ばれる、醸造過程で焼酎を加えた甘い酒が起源で、室町時代に日本に伝来したとも言われています。
「甘い酒」というように、始めはみりんは飲み物、それも公家や武家、寺院など上流階級の人が飲むもの、とされていたようです。
価格はなんと、お酒の二倍、米の三倍もしたという歴史があります。江戸に入ってからは一般の人にも親しまれるようになりました。
そして、江戸後期になりやっと、調味料として用いられるようになったのです。
また飲用としては、みりんの製造過程で焼酎を加えて飲みやすく”直し”たものを、広く飲まれていたことが、1800年代の文献にも記されています。
味醂に焼酎を加えて引用された。それは江戸で「本直し」、上方で「柳蔭」と呼ばれ、夏場の暑気払いに飲む、口当たりのよい冷酒であった引用:石垣悟 編「日本の食文化5 酒と調味料、保存食」p.68(2019)吉川弘文館
みりんの製法
みりんの製造工程
みりんとは、酒の醸造を応用してつくられるもので、焼酎などの蒸留酒に米麹と蒸したもち米を加え、30度前後の温度で2か月ほど仕込みます。糖化・熟成したもろみを搾ってろ過してできるのが「みりん」です。
いわゆる「本みりん」を、今回は「みりん」と呼んでいます。
<参考>監修/服部栄養料理研究会 編/こどもくらぶ(2019)「すがたをかえる食べもの つくる人と現場②米」あすなろ書房
みりんの使い方と5つの役割
さて、みりんといったら、どんなイメージを持ちますか?甘みをつける、照りを出す、保存性を高める、まろやかにする…それだけではありません。
スプーン1杯でお料理がぐっとおいしくなるんです。
同じくアルコールの入っている「料理酒」との違いとして、甘みや照り、ツヤをつけたい料理に向いているのがみりんです。今回は、みりんの5つの効果に着目しました。
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甘みやコク、旨味を出す
お料理に甘みを出すとき、砂糖のほかにみりんを使うことも多いですよね。砂糖は直接的な甘さなのに対し、みりんは奥行きのある優しい甘さを加えることができます。
みりんの甘みはグルコースを主体に、イソマルトース、ニゲロース、コウジビオース、マルトースなどの各種二糖、三糖類やオリゴ糖で構成された極めて温和なものである。さらにはアルコールや有機酸が隠し味的に作用して独特の甘味となっている。 (中略)また、これらの糖類の中には甘味だけでなく苦味などを呈するものもあり、それらの味が複雑に絡みあって、コク味などのふくらみを食品に付与する。引用:編著・森田日出夫「みりんの知識」(2003)幸書房 p.148
生臭さを消す
調理の過程で魚や肉の生臭さを消す効果もあります。みりんに含まれるアルコールは、加熱すると揮発しますが、揮発するときに一緒に臭みも消してくれるのです。
アルコールだけではなく、糖類やアミノ酸、香気成分によっても臭みを消したり、包み隠したりするという効果があります。
みりん中のグルコースなどの還元糖は、アミノ酸などのアミノ基を有する化合物と反応して、α-ジカルボニル化合物などの中間生成物を生み出す。これらの反応性に富んだ化合物が、種々の悪臭成分と化学的に反応して消臭効果を示す。引用:編著・森田日出夫「みりんの知識」(2003)幸書房 p.141
味を染み込ませる
みりんに含まれるアルコールには、味を染み込ませる効果があります。
というのも、アルコールは分子が小さく、アミノ酸・有機酸・糖類といった食材への浸透が早いため、料理の味付けが速く・均一に仕上がる効果を持つのです。
※画像引用:全国味醂協会HPより引用
照りを出す
照りを出すという効果でも、みりんが使われます。
鰆(さわら)の照り焼きの光沢度を比較したところ、肉眼のみならず、実験でもはっきりと照り効果があるという結果が出ています。
調味液 | みりん+醤油 | 砂糖+清酒+醤油 | 砂糖+醤油 |
光沢度 | 180 | 152 | 132 |
出典:編著・森田日出夫「みりんの知識」(2003)幸書房 p.141
砂糖でも甘みは出ますが、実験結果からも、照りやつやを出すならばみりんを使うのが理にかなっているんです。
煮崩れを防ぐ
レシピを見ると、煮物に多く入っている印象の、みりん。
野菜や魚の煮物にみりんを使うことで、煮崩れを防ぐ効果もあります。この実験結果から、野菜でも、肉や魚でも煮崩れの防止効果が期待できるということです。
煮切りみりん15%溶液中で92℃、30分間加熱したじゃがいもは、水だけで加熱したジャガイモに比べて細胞からのデンプン粒の溶出が抑えられている…(中略)…これは煮切りみりんの主成分である糖の浸透圧作用によるものである。 植物性食材の場合だけでなく、肉の場合にも糖類の作用で筋繊維の崩壊が抑制されることが確認されている。引用:編著・森田日出夫「みりんの知識」(2003)幸書房 p.145-147
みりんと”みりん風調味料”どう違う?
スーパーのみりんコーナーに行くと、よく見かけるのが「みりん風調味料」。
みりんが広く親しまれるようになったあとの昭和22年に「新みりん」という名称で販売され始めたもので、それまで高級品として扱われていたみりんの代用品として生まれました。
それぞれの製法や使い方の違いを見ていきましょう。
本みりんとみりん風調味料
本みりん
いわゆる「みりん」と呼ばれるもので、アルコールを含みます。(酒税法上は「アルコール分が15度未満でエキス分が40度以上のもの」と定義)もち米、米麹、アルコール(もしくは焼酎)を発酵させてつくられ、発酵由来の甘みが特長です。
アルコールが含まれるので、購入する際に年齢確認が求められます。
みりん風調味料
みりんに味を似せてつくられていますが、原材料や製法が違います。基本的な品質設計はみりんを煮切ったもののため、アルコール分をほとんど含みません。そのため、どこでも誰でも買うことができ、みりんより安く売られることが多いです。
本みりん | みりん風調味料 | |
原材料 | もち米・米こうじ 醸造アルコール 糖類など 酒税法で 定められた原料 |
糖類・米 米こうじ・酸味料 調味料など |
製法 | 糖化熟成 | ブレンドなど |
アルコール分 | 約14% | 1%未満 |
塩分 | 0% | 1%未満 |
本みりんの使い方
本みりんにはアルコール分があるため、特にお子さんや妊婦のかたが食べる場合は、アルコールを飛ばす必要があります。
煮物のような調理では不要ですが、加熱しないで使うおひたしやタレを作るときなどは 「煮切り」と呼ばれる工程が必要です。
みりんは、料理の「さしすせそ」、つまり砂糖、塩、酢、醤油、味噌の前に入れます。
臭みをとったり、味を染み込みやすくする料理酒と同じく、みりんもアルコールを含むため、ほかの調味料より前に入れることで効果が発揮されます。
みりん風調味料の使い方
アルコールを含まないので、煮切らなくてもOKなのが最大の利点。アルコールの香りが苦手なかたが使ったり、ドレッシングやデザートのシロップ代わりに使ったりと、シーンを問わず使うことができます。
一方で、アルコールの調理効果である、生臭さを消す効果はありません。
順番としては料理の仕上げ(「さ・し・す・せ・そ」のあと)に入れましょう。
みりんの嬉しい健康効果
みりんを使う理由は、おいしさだけではありません。発酵食品であるみりんには、身体にうれしい効果がたくさんあるのです。
アミノ酸の抗酸化作用
みりんにはアミノ酸である、グルタミン酸やアスパラギン酸、ロイシンなどが含まれます。
グルタミン酸はたんぱく質のもととなり、アスパラギン酸はエネルギーの生産を活性化させる作用も。
さらにロイシンは体内で生成できず、食事から摂らなければいけない必須アミノ酸と呼ばれるもので、疲労回復効果があります。激しい筋力トレーニングをする選手も積極的に摂っている成分です。
砂糖より低GI!糖質制限の味方
料理のとき、砂糖の代わりにみりんで甘みを出すことで、血糖値の上昇がゆるやかになります。
というのも、みりんは砂糖に比べてGI値が低いためです。
GI値とは、食品に含まれる糖質の身体への吸収度合いで、60以下が望ましいとされています。砂糖の代表格である上白糖と比較すると、炭水化物量はさることながらGI値が大幅に低いことがわかります。
カロリー | 炭水化物 | GI値 | |
みりん 大さじ1(18g) | 43kcal | 7.8g | 15 |
上白糖 大さじ1(9g) | 35kcal | 8.9g | 109 |
糖尿病のかたは砂糖のかわりにみりんで味付けをすることもあるそうです。
みりんのいろいろ
ひとことでみりんと言えど、多くの種類がありますよね。
どれを選んでいいのか悩んでしまいます。実際に使ってみてのおすすめをピックアップしました。
●三州三河みりん/株式会社角谷文治郎商店
スーパーでも見かけたことがあるかもしれません。伝統的な製法でじっくりつくられるこちらのみりんを使うと、お料理がぐっとおいしくなります。
愛知県東部の三河地方は、みりん業者数全国一を誇るみりん造りの本場。 醸造に適した水と温暖な気候に恵まれ、200年以上昔から、みりんの醸造が盛んに行われている地域です。
・会社名:株式会社角谷文治郎商店
・商品情報:公式サイト
●酒蔵がつくった純米本みりん/釜屋
埼玉県の酒蔵で、日本酒を買うついでに…と思って買ったみりんがとてもおいしく、ほれ込みました。自然な甘みと旨味の本みりんで、飲み物としてそのまま飲んだり、炭酸割にしたりもおすすめです。プリンやアイスクリームにかけて食べるとカラメルみたいなコクがでておいしいです。
・会社名:株式会社釜屋
・商品情報:公式サイト
みりん粕「こぼれ梅」をご存じですか?
ちなみに、先日京都に行った際にこんなものを発見しました。 こぼれ梅と呼ばれる、みりんのしぼり粕です。いわば、酒粕の味醂バージョンが酒屋で売られていました。 袋から出すとバラ粕にも見えます。
みりん粕は真っ白でぽろぽろした形状が、満開になった梅の花のように見えることから別名「こぼれ梅」とも呼ばれます。
そのままかじるとほんのりアルコールが感じられる、奥深いやさしい甘さのおやつに。アルコールは多少あれど、子どもでも食べられる程度だそうです。丸めて揚げて、ドーナツのように味わうのもおすすめだそう。
酒店の店主いわく昔は、みりん製造の大手である宝酒造の工場近くで配っていたのだとか。
おじいちゃんおばあちゃんが小さいころから食べていた、おなじみの味なんですね。
また、健康効果も高いそうですが、酒粕のように出回ることが少ないためなかなか話題にならないのだそうです。みりんの生産地ならではの文化かもしれませんね。
うまく取り入れて、みりんで健康に!
みりんの使い方や嬉しい効果を紹介しました。実はレシピに入っているのには、科学的な理由もあったのですね。
さらにみりんは、そのまま熟成酒のように味わう、炭酸割りにする、スイーツにかける…と、楽しみかたは無限大です!
使うみりんによって、お料理の味わいが変わるのも面白いですよね。好みのみりんを見つけて、ぜひいろいろ楽しんでみてください!
<参考サイト>
https://www.oenon.jp/customer/faq/seasoning/
https://mikawamirin.jp/history/
<参考文献>
編著・森田日出夫「みりんの知識」(2003)幸書房
石垣悟 編「日本の食文化5 酒と調味料、保存食」(2019)吉川弘文館
Profile
石川 奈津紀
仙台市出身でNHK山形、NHK仙台でキャスターを務めたのち2018年から東京でフリーアナウンサーとして活動。 現在はBSテレビ東京の朝の番組「日経モーニングプラスFT」に出演中。 日本酒を健康的に楽しみ、飲みながら痩せる「NOMIYASE」をSNSを中心に発信している。唎酒師。ダイエットプロフェッショナルアドバイザー。