日本酒の精米歩合とは?数字の意味や精米する理由、特定名称について解説
日本酒のラベルに記載されている精米歩合。1%から100%まで幅広い数字が書いてありますが、数が小さければ小さいほど美味しいお酒……というわけではないんです。
日本酒の「精米歩合」とは?精米する理由、精白歩合との違いも解説
日本酒の味わいや香りに大きく関わる精米歩合。精白歩合との違いについてもわかりやすく説明します。
精米歩合とは「削ったあとのお米の割合」
日本酒をつくるための酒米も、私たちが食べている食用米も、精米していない段階では固い玄米です。酒米は加工しやすいように、食用米は食べやすいように加工する工程を「精米」といいます。
精米によって削られたあとに「残ったお米の割合」を表す数字が精米歩合です。食用米を白米の状態にするためには約10%を削るので、一般的な白米の精米歩合は90%になります。
一般的な食用米の精米歩合は約90%
いっぽうで、精白歩合は「削ったお米の割合」です。精米歩合がお米を削ったあとに残った量の割合なのに対して、精白歩合は削ったほうの割合を示します。つまり精米歩合70%と精白歩合30%は同じ意味。低精米=高精白です。
なぜお米を削るの?精米する理由
健康のために白米ではなく玄米を食べる方もいらっしゃいますよね。お米は外側ほど栄養価が高く、タンパク質が多く含まれています。玄米であればお米の栄養素を余すことなく摂取できますが、しっかり噛まないと栄養素が分解・吸収できません。 日本酒の製造工程では麹菌がお米を食べて、お米の中のデンプンを分解して糖に変え、糖を酵母が食べてお酒ができます。人間が玄米を固くて食べにくいと感じるのと同じように、麹菌も玄米は分解しづらいのです。そこで効率よく麹菌に働いてもらうために、精米したお米を使用します。
精米歩合が低い日本酒は、高くて美味しい?
精米歩合は「低い・高い」で表現します。言葉のイメージとしては「高い」のほうが、たくさん削って磨かれているように感じますよね。でも精米歩合は削って残った割合なので、削れば削るほど「低い」と表現されます。
精米歩合が低い日本酒は価格が高いものが比較的多いため「高級=いいお酒=万人ウケする美味しいお酒」と思われやすいですが、必ずしもそうとは限りません。 精米歩合の低い日本酒をつくるには、単純にコストがかかります。たとえば精米歩合が70%の日本酒『A』と、35%の日本酒『B』を同量つくる場合、BはAの倍量のお米が必要です。削れば削るほど使うお米の量が増えて製造期間も長くなり、人件費や電力使用量も増加します。
たしかに精米歩合が低い日本酒は香り高く、すっきりした味わいで飲みやすいお酒が多いです。お米に含まれる脂質やタンパク質などの栄養素は、お酒に旨味をもたらす反面で雑味をもたらす場合もあります。そのためよく削って磨かれた精米歩合の低い日本酒は、クリアな味わいになりやすいのです。 しかし精米歩合が高い日本酒のコクや旨味、奥行きのある味わいにもファンは多く、精米歩合の低い・高いで美味しさは判断できません。
精米歩合で変わる日本酒の「特定名称」とは
「純米酒」や「大吟醸酒」といった「特定名称」がついている日本酒は、それぞれが材料や製造方法、精米歩合にもこだわってつくられています。
精米歩合による特定名称の違いは以下の図をご覧ください。純米酒は70%以下の規定がありましたが、醸造技術の進歩によって品質が向上したことを受けて、2004年に要件が変更されました。
特定名称酒の一覧表
特定名称 | 精米歩合 | 醸造アルコール | 吟醸づくり |
---|---|---|---|
純米酒 | 規定なし | ||
本醸造酒 | 70%以下 | ✔ | |
特別本醸造酒 | 60%以下 | ✔ | |
特別純米酒 | 60%以下 | ||
吟醸酒 | 60%以下 | ✔ | ✔ |
純米吟醸酒 | 60%以下 | ✔ | |
大吟醸酒 | 50%以下 | ✔ | ✔ |
純米大吟醸酒 | 50%以下 | ✔ |
吟醸づくりとは?
吟醸づくりとは、酵母の動きがギリギリ止まらない程度の低温で、時間をかけて発酵させる製法です。過酷な状況でじっくりと発酵した酵母は、フルーティーで華やかな香り「吟醸香」を発生させます。時間と手間をかけて、丁寧につくられる特別な日本酒だけが「吟醸酒」の特定名称を名乗れます。
醸造アルコールとは?
醸造アルコールとは、日本酒の製造工程外でつくられたアルコールです。第二次世界大戦後、原材料の不足をおぎなうためにアルコールを添加してカサ増しした「三増酒(さんぞうしゅ)」が製造されていた時代がありました。そのイメージからアルコールを添加した日本酒、いわゆるアル添酒を敬遠する方もいらっしゃいます。
しかし、現代のアル添酒は非常にクオリティが高いものばかりです。
最近ではアル添酒のネガティブなイメージを変えるために開発された『すごい!!アル添』も発売され、話題になっています。
アルコールを添加することで口当たりが軽くなり、クリアな味わいの日本酒に仕上がる効果が期待できます。また、吟醸香をより強く引き出したり、ボリューム感が増したりと、醸造アルコールは日本酒の個性づくりにも一役買っています。
特定名称を記載しない日本酒がある
特定名称はお酒を選ぶ目安のひとつにはなりますが、それだけでは味わいや特徴を判断できません。精米歩合が高くても吟醸づくり以上に手間のかかる製法でつくられていたり、こだわり抜いた原材料を使用していたりする日本酒が増え、たった8つの特定名称では分類できなくなってきているのが現状です。 そこで「スペックによる先入観を持たず、味わいを重視してほしい」との想いから、あえてラベルに特定名称を記載しない酒蔵もあります。そのひとつとして挙げられるのが株式会社せんきん(栃木県さくら市、以下せんきん)です。
せんきんの『仙禽 オーガニックナチュール』は精米歩合90%なので、特定名称では純米酒に該当します。酒米はさくら市で作付けした「ドメーヌ・さくら」と「亀の尾」を使用し、生酛(きもと)づくりで醸すお酒です。
酵母は、蔵に自生する「蔵つき酵母」を使っています。その土地でなくては生み出せない、唯一無二の日本酒を醸すためのこだわりです。
仙禽 オーガニックナチュール 2021
酵母に乳酸を加えたものが日本酒のベースである酒母になります。現代の日本酒づくりでは、人工の乳酸を使って酒母をつくる製法、速醸酛(そくじょうもと)が一般的です。
しかし人工的に精製できなかった時代には、空気中や蔵の壁、天井などに自生する天然の乳酸菌を繁殖させる製法、生酛で酒母をつくっていました。生酛づくりは高い技術が必要なうえに非常に手間がかかり、速醸酛づくりの約2倍の時間を要します。
純米大吟醸酒に引けを取らないほどの手間やコストをかけているのに、現状の制度では「純米酒」に分類されてしまうのです。特定名称だけで判断されて、手に取ってもらえないケースも考えられます。
特定名称を使用しない酒蔵が増え、純粋に味わいや製法で判断される機会が増えていけば「純米酒だから安い」「精米歩合が低いから美味しい」という偏った認識も薄れていくかもしれません。
精米歩合90%の日本酒を飲んでみた
先ほど紹介した『仙禽 オーガニックナチュール 2021』を飲んでみました。ヨーグルトのような乳酸菌系の香りと一緒に、メロンやバナナのようなフルーティーな香りがします。とはいえ香りは強くないので、かなり鼻を近づけないと感じません。
色がわかりやすいように白い紙を背景に撮ってみました。透き通った黄色が美しいです。 口にふくむと、濃厚でコクのある甘味と旨味、そしてキレのある酸味が一気に押し寄せます。しっかりした力強い味わいですが、爽やかな甘さで飲みやすいです。コク、甘味、酸味、旨味がバランス良く広がって、ジューシーな後味とともにふわっと抜けていきます。 昔ながらの製法でつくられたお酒ながら、未体験の新しさを感じました。飲み干したあとも舌にとろみが残る感覚があり、それがじわじわと余韻を広げてくれます。個性的なのに万人ウケしそうな、味わい深く印象的なお酒です。
まとめ:精米歩合だけで日本酒は選べない!
最後にこの記事のポイントをまとめます。
・精米歩合が低い日本酒は、高くて美味しいとは限らない
精米歩合は、お米を削ったあとに残った割合を示す数字でしかありません。低ければ必ず美味しいわけではないですし、高くても美味しい日本酒はたくさんあります。
精米歩合に惑わされず、いろいろな日本酒にチャレンジしていただけると嬉しいです!