日本酒の甘口と辛口とは?日本酒度を知ると理解が深まるって本当ですか?
日本酒の味わいを評価する「甘口」「辛口」ですが、どういった基準で甘口や辛口と表現しているかご存知ですか?
今回は「日本酒の甘口・辛口」について、お酒の先生に気になる疑問をぶつけ、お酒に詳しくない人でも理解できるよう、味わいの違いについて色んな実験をしてみました。
この記事を読むことで、日本酒の甘口・辛口について理解を深め、日本酒のラベルから味わいを想像できるようになるでしょう。知っていると日本酒の楽しみ方の幅が広がりますよ!
日本酒の甘口と辛口ってなんだろう?
岸本:アサノさん、今回も日本酒について色々質問させてください。よろしくおねがいします。
アサノさん:こちらこそよろしく!ところで岸本さんの好きな日本酒はどんなお酒ですか?
岸本:今まで飲んだ中では新潟県や高知県の日本酒が自分好みのお酒が多かったです。
アサノさん:どちらも淡麗辛口の日本酒が有名ですね!4タイプの日本酒だと「爽酒」に該当するお酒が好きですよね?
岸本:はい!そうです。冷やしてキュッと飲めるタイプが好きですね!
アサノさん:ところで、甘口なお酒はイメージしやすいと思いますが、辛口のお酒ってどういうお酒だと思いますか?
岸本:うーん、、僕が好きなお酒も「辛口」と言ってきましたが、味が辛いわけでないですもんね。。
アサノさん:辛口と表現される要素からお伝えすると、①糖分が少なく甘くない、②さっぱりスッキリ感じる酸度や温度、③余韻を引き締める苦味や渋み、④アルコール度数、⑤味わいの濃淡と香りです。これらの味わいの感じ方を座学と実験を通して理解していきましょう。
日本酒度とは日本酒に含まれる「糖分の量」
アサノさん:「日本酒度」って聞いたことありますか?
岸本:日本酒度?日本酒っぽい度合いとかでしょうか・・?
アサノさん:日本酒度とは「日本酒に含まれる糖分の量を数値化したもの」と覚えてください。そして、この数値がお酒の甘さや辛さを表す一つの目安になります。わかりやすく理解するために、砂糖(糖分)入りのお水と普通のお水を用意しました。
糖分の量が違う砂糖水
アサノさん:まずは何も入れていない「ただのお水」を飲んでみてください。
岸本:うん!美味しい!
アサノさん:つぎは2種類の量の違う砂糖を入れたお水を飲んでみてください。
岸本:うん!甘い!(笑)
アサノさん:(笑)当たり前ですが、糖分がたくさん含まれた液体はより甘く感じますよね?日本酒度の測り方は日本酒度計(浮秤)を浮かせて、水とお酒の比重を計測します。
辛口の目安は日本酒度がプラス
岸本:そうすると、糖分が多いと日本酒度はプラス?ですか?
アサノさん:その逆で「糖分が多いと日本酒度はマイナス(ー)」、糖分が少なければプラス(+)になります。
岸本:えっ・・?糖分が多いならプラス(+)じゃないんですか・・?
アサノさん:水と糖分の比重が関係しています。水と同じ重さであれば日本酒度は±0です。日本酒に含まれる糖分が少ないと、比重が軽くなり日本酒度計の浮秤は沈みプラス(+)の数値を示します。
岸本:糖分が少ないとプラスに表示されるということは、日本酒度がプラスの場合、辛口よりのお酒でしょうか?
アサノさん:はい、そのとおりです。一般的に日本酒度がプラスになるほど辛口といわれています。
甘口に感じるのは日本酒度がマイナス
アサノさん:さきほどと反対の「糖分が多い」日本酒は水よりも重いため、浮秤は浮きマイナス(−)の数値を示します。
岸本:ということは、日本酒度がマイナスになれば甘口ということですね。
アサノさん:はい、そうです!また、純粋なアルコールは水より軽いため、アルコールを添加すると辛口なお酒になる傾向があります。
岸本:なるほど!
アサノさん:日本酒度の本来の目的は、お酒造りの工程の中で造り手が発酵度合いを見極めるために使用するものです。アルコール発酵では糖分を酵母がアルコールと炭酸ガスに変えるので、どれくらい糖分がアルコールに変わっていくかで残糖量がわかります。日本酒度はあくまでも目安なので、糖分の量だけじゃなく、いろんな要素で日本酒の味わいが決まることを今日は学んでみましょう!
日本酒度計のプラス値とマイナス値のイメージ図
- 日本酒度プラス(+):日本酒に含まれる糖分が少なく、比重が軽くなり日本酒度計の浮秤は沈みプラス(+)の数値を示します。
- 日本酒度マイナス(−):反対に日本酒に含まれる糖分が多い場合、浮秤は浮きマイナス(−)の数値を示します。
味わいの濃淡へ影響する「酸度」と日本酒の「温度」
アサノさん:日本酒度のプラス・マイナスを理解した後は、酸度についても実験をしながら学んでいくことにしましょう。「酸度」とは何の数値だと思いますか?
岸本:酸度とは「酸っぱい度合い」を表した数値でしょうか・・?
アサノさん:「酸度」といっても酸っぱさの度合いを示すものだけではなく、日本酒の「キレ」にも大きな影響を与える成分です。日本酒の製造過程でできたコハク酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸の量を表しています。この種類や量も味わいに影響します!これも実験をしながら学んでいきましょう。
レモン入りの砂糖水と砂糖水
アサノさん:酸度の影響を体感するために、今回は例としてレモン入りの砂糖水とただの砂糖水を用意しました。酸度の中でも「クエン酸」の有る無しを体験できますよ。それぞれ飲み比べてみてください。
岸本:レモンを入れた砂糖水の方が酸味が加わったことで、スッキリで爽やかな口当たりになりました!
アサノさん:ここで意識してほしいのは、どちらも同じ量の砂糖(糖分)が入っているのに、レモン汁を入れると、甘さが控えめに感じてライトな味わいに変化するということです。最近は「クエン酸」が印象的な「白麹」を使った日本酒や、甘い日本酒でも酸度が高い甘酸っぱいタイプも人気です!
酸度に影響する代表的な成分
- 乳酸:日本酒の中心。生酛や山廃に多い。温めても美味しい!
- リンゴ酸:白ワインのように爽やか。リンゴ酸をたくさん造る酵母もあります。
- コハク酸:貝類に多い旨味の成分でコクを与える。多すぎると苦みと渋み。
日本酒度と酸度について解説してきましたが、この2つの指標を組み合わせたチャートがこちら。日本酒の銘柄によってはこの数値に合致しないこともありますが、日本酒を選んだりする際の参考にしてみてください。
温度によってお酒の感じ方が変化する
アサノさん:つづいては、温度によってお酒の感じ方が変化してくる実験をしましょう。今回は常温の砂糖水と冷やした砂糖水を用意しました。それぞれ飲み比べてみてください。さっきよりも砂糖の量を多くしてみました。
岸本:まずは常温の砂糖水から頂きます。おっ!これ結構甘いですね。。。炭酸が抜けた冷えてないサイダーのような味です。これはすっごい甘いですね。。
アサノ:砂糖入れすぎちゃったかな?(笑)次は冷えている方を飲んでみてください。
岸本:うん、さっきよりも格段に飲みやすく感じます。もちろん甘いですが、冷えたことでベタッと感じる甘さが薄れた印象です。
アサノ:冷やすことで飲みやすい口当たりになりますよね。冷やすことでシャープさやキレを演出できるので、温度によって辛口と感じやすいお酒もあるんです。特に酸の豊かなものはよりキリっと爽やかになります。
苦味や渋味も甘口・辛口に影響する
日本酒の辛口と甘口を理解するために、日本酒度(糖分の量)、酸度や温度による違いを学んできました。3つめの要素として、苦味や渋味についても学んでいくことにしましょう。
アサノさん:苦味は余韻を引き締めてキレを与える役割があり、渋味はボディをつくったり、辛口の印象を与える要因です。実際日本酒には塩分は入ってないけど今回は砂糖水に「にがり入りの塩」を加えて飲み比べてみましょう。
岸本:それでは飲み比べてみます。たしかに!にがり入りの塩を加えるとキュっと砂糖水が引き締まりますね。
アサノさん:そうなんです。甘さが抑えられ余韻が引き締まって苦みやミネラル感などの複雑味を感じますよね。今回は用意していませんが、渋味は緑茶と麦茶で飲み比べるとわかりやすいですよ。
岸本:あー、なるほど!ボディを作るってイメージできました。緑茶の方がしっかり重厚な感じがしますね。
アサノさん:最後に紹介する要素はアルコールの刺激やキレ。アルコール度数が高いと辛口に感じるタイプです。一般的に日本酒のアルコール度数は14〜15度前後ですが、原酒タイプは17〜18度でアルコールによる刺激を感じやすいです。その一方で、アルコール度数が8%程度の低アルコール日本酒は刺激が少なく、甘口な印象を受ける銘柄が多いです。
またアルコール発酵では酵母が糖分をアルコールに変えるので、アルコール度数が低いものは発酵を途中で止めて糖分を残したもの、アルコール度数が高いものは発酵がより進んで糖分がアルコールに変わっているので甘さが少なく、より辛口になっているという目安にもなります。
岸本:アルコール度数は必ずラベルに載ってるので、買う時の一つの目安のにもなりそうですね!
アミノ酸度!味わいの濃淡!吟醸香!日本酒って複雑!
アサノさん:日本酒の重要な成分のアミノ酸などの「旨味」や「コク」も味わいに影響します!言わば味わいの濃淡ですね。旨味成分の種類や量も関係します。「アミノ酸度」も時々ラベルに記載されてます。また米の旨味が多い純米酒より、醸造アルコールを添加したもののほうが余韻がスッキリとライトフィニッシュでより辛口に感じます。
岸本:なるほど!僕が好きなタイプはアミノ酸度が低いスッキリとしたタイプですね!
アサノさん:日本酒度という甘辛の指数だけでなく、酸度やアミノ酸度の種類や量、五味の構成、温度などいろんなものが味わいに影響します。吟醸酒のように香りにフルーツやお花の印象がある香りの強い「薫酒」タイプは甘く感じやすいですし。。 難しいですよね?
岸本:うーん、まだまだ飲んで勉強しなくては!先生!実験もそこそこに実際に飲み比べにいきましょう!
実験で使用した材料の一覧
甘口と辛口の日本酒飲み比べてみよう!
つづいては甘口と辛口の日本酒をそれぞれ飲み比べてみよう!ということで、今回はこちらの日本酒を用意致しました。大関株式会社「極上の甘口」
今西清兵衛商店「春鹿 超辛口」
アサノさん:さきほどの実験で味わいの変化を体験しました。この後は日本酒を飲んでいきますが、それぞれどのタイミングで甘みや酸味、苦味や渋味を感じ、どれくらい持続するかテイスティングしていきましょう。
「極上の甘口」のお酒を飲んでみよう!
アサノさん:まずは大関酒造から発売されている「極上の甘口」から飲んでみましょう。まずはラベルからどんなお酒か想像してみましょう。
岸本さん:はい!まずは日本酒度は「−50」です。さきほど学んだ内容ではとっても甘いお酒だと想像できますね!酸度が「2.3」というのが気になります。
アサノさん:さすが!出来る男は違うね!日本酒の平均的な酸度は1.16〜1.22程度だから、酸度も平均より高い日本酒ですね。
岸本:では、いただきます!
アサノさん:どうぞ!口や舌の色んな場所に当てながら、どのタイミングで五味を感じるか確認してみてください。口に含んだ第一印象は?
岸本:うん、甘いですね!これはわかりやすいです。とろ〜っとした甘い口当たりが結構持続します。
アサノさん:あとは、外観は甘口の方がトロっとしてますね。やわらかな米の甘味を感じさせる香り。アルコール度数ももう1本より低くて甘酸っぱくて飲みやすい!
極上の甘口の商品情報
超辛口の日本酒を飲んでみよう!
つづいては春鹿超辛口を飲んでみましょう。
岸本:ラベルが全く読めなくても味のイメージができますね!
アサノさん:「超辛口」って書いてあるからね。それではこちらも飲んでみてください。
岸本:いただきます!
アサノさん:まずは口に含んだ瞬間どんな印象を受けましたか?
岸本:ラベルから想像していたよりも甘みを感じました。
アサノさん:そうですね。一番はじめに舌先で甘みを感じますよね。だけど持続せず後味はスッキリして、酸味とほのかな余韻の苦みも少し感じませんか?
岸本:そうですね!スッと飲める僕好みのお酒です!
アサノさん:香りもやや控えめで爽やかだし、お米の旨味はやわらかで上品、キュッと余韻が引き締まってますよね。
岸本:はい、この一連の味の感じ方が「辛口」といわれる所以なのだと、少し理解できました。
アサノさん:極上の甘口と飲み比べるとよりわかりやすいですよね!
春鹿超辛口の商品情報
「おまけ」日本酒とチーズを一緒に食べてみよう!
アサノさん:最後に甘口・辛口の日本酒とチーズを合わせて、どの組み合わせが美味しいか試してみましょう。
今日用意したチーズはオレンジ色のハードタイプの「ミモレット」、カルヴァドス(リンゴを原料とする蒸留酒)で洗った「ウオッシュチーズ」、そしてブルーチーズの「ゴルゴンゾーラ」です。 チーズといえばワインのイメージが強いですが、これまでにも日本酒とチーズを合わせて楽しんでいます。
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岸本:まずはミモレットからいただきます。うん、美味しい!甘口のお酒と一緒に食べると美味しいです。
アサノさん:チーズは基本的に塩分を多く含んでいるから甘口のお酒に合いやすいですよ。今回用意したミモレットをもっと熟成させるとカラスミのようと言われていて、日本酒らしい辛口タイプのアテや珍味として好きな人も多いんです。
岸本:ではゴルゴンゾーラもいただきます。これはうまい!ミモレットよりも甘口のお酒がすすみます!
アサノさん:ゴルゴンゾーラは塩分も刺激もかなり強いので、ハチミツやレーズン、そして甘口のお酒を合わせるのが定番!岸本さんは辛口のお酒が好きだと思いますが、甘口のお酒も美味しいですよね?
岸本:はい、また日本酒の楽しみの幅が広がりました!先生、今日もありがとうございました!
Profile
岸本 祐介
お酒をこよなく愛する三十路間近の徳島人。好きな飲み方は「安い居酒屋でグダグダ飲む」、好きな言葉は「おあいそ」。特集企画を通して日本酒勉強中!