酒米とは?4つのポイントで理解!知っておきたい酒造好適米の品種まとめ
ふだん私たちが食べているお米は食用米と呼ばれる一方で、日本酒の原料となるお米は「酒米(酒造好適米)」を使用しています。酒造好適米とは読んで字のごとくお酒に適しているお米のことです。
今回は酒造好適米の意味や食用米との違いを解説しながら、代表的な酒米を5つ紹介したいとおもいます。
最後には酒米違いで日本酒を飲み比べてみました。日本酒の味わいや香りに影響を与える「酒米」を学べる内容ですので、日本酒を購入・注文するときの参考にしてみてください。
酒造好適米とは?
農林水産省では、玄米の種類を「水稲うるち玄米」「水稲もち玄米」「醸造用玄米」の3種類に分けています。
使用目的の適性で分けられており、普段、私たちが食べている米が「水稲うるち玄米」、餅に加工される米が「水稲もち玄米」、酒造りに使われるのが「醸造用玄米」になります。
この「醸造用玄米」として登録されている玄米の品種を酒造好適米と呼んでいます。ちなみに、酒米と言う呼び方は通称で、酒造好適米(もしくは醸造用玄米)が正式な呼び方になります。
農林水産省が公表している「令和2年産米の農産物検査結果(確定値) 」を見ると、現在、生産されている醸造用玄米は120種類もあり、その多さが伺えます。
4つのポイント「酒米と食用米の違い」
普段私たちが食べている食用米(飯米)は、食べて美味しいお米ですが、酒造好適米はその名の通り、酒造りに向いているお米になります。
では、実際にどんな要件があるのかと言うと、4つのポイントがあります。
精米中に砕けにくい
食用米の精米歩合は約90%ですが、酒造りに使うお米は精米歩合が70%であったり、60%であったり、食用米よりも精米することが多いので、精米中にお米が割れないことが重要になります。
米粒が大きい
高精米を行う場合は、米粒が大きいほど有利なので粒の大きさは重要になります。
心白がある
米粒の中心部にある白色の部分のことを「心白(しんぱく)」と言います。 心白がある方が麹米をつくる際に麹菌の菌糸が入り込みやすく、強い酵素力のある麹米が造りやすいので、重要になります。
タンパク質が少ない
タンパク質の含有量が多いと、アミノ酸度が上がりやすく雑味のある酒になりやすいので、タンパク質が少ない方が好まれます。
5つの代表的な酒米
農林水産省では、米の農産物検査結果を公表しており、この検査数量を大まかな生産量として見ることできます。
令和2年産米の醸造用玄米の検査量を見ると「山田錦」(28,342トン)が最も多く、全体の約35.8%を占めています。次いで、「五百万石」(17,561トン)、「美山錦」(5,710トン)、「秋田酒こまち」(2,343トン)、「雄町」(1,987トン)の順となります。
日本酒を飲まれている方なら聞いたことがある品種が多いですよね!ちなみに、令和2年産米では順位の入れ替わりがあり、「秋田酒こまち」が「雄町」の検査量を上回りました。近年の美酒王国秋田の勢いを感じられます。それぞれの品種の産地についても見ていきましょう。
代表的な酒米の産地
山田錦(やまだにしき)
山田錦は兵庫県で最も多く栽培されてます。兵庫県の栽培量だけで全体の約6割を占めており、他の追随を許さない圧倒的な生産量を誇ります。一度は聞いたことがあるとても有名な酒米ですね。また、お隣の岡山県や山口県でも栽培量が多いです。
山田錦は、東北地方では栽培に適していないため、ほとんど栽培されておらず、西日本を中心に栽培されています。そのため、東北地方の各県では、品種改良を行い、各県独自の品種の栽培を行っています。
山田錦で造られたお酒は、奥行きのある豊醇な味わいになると言われています。
五百万石(ごひゃくまんごく)
五百万石は北陸地方が主要栽培地で、新潟県で最も多く栽培されています。新潟県で、全体の約5割が栽培されており、他には、富山県、福井県での栽培が多いです。この3県で、全体の約8割の栽培量を誇ります。耐冷性がある品種なので、寒い地域でも栽培することが可能で、日本海側のほとんどの県で栽培されています。
早生(わせ)の品種になるので、新酒の最初の時期には、五百万石のお酒が発売されることが多いです。
五百万石で造られたお酒は、淡麗でスッキリとした味わいになると言われています。
美山錦(みやまにしき)
美山錦は長野県での栽培が最も多く、全体の約5割が栽培されています。寒冷性がある品種なので、東北地方でも栽培されています。
長野県だけで3,089トンも栽培されていますが、年々、栽培量が減ってきており秋田酒こまちの栽培量に追い抜かれる日が来るかもしれません。
美山錦で造られたお酒は、なめらかでさっぱりとキレの良い味わいになると言われています。
秋田酒こまち
秋田酒こまちは、秋田県のみで栽培されており、年々、栽培量が増加している品種です。山田錦並みの醸造特性と美山錦並栽培特性の持つ品種の開発を目標にして、開発が行われました。
秋田酒こまちで造られたお酒は、香り高く、上品な甘みがあり、旨さと軽快な後味を持つ日本酒になると言われています。
雄町(おまち)
雄町と言えば、岡山県。今回、紹介する品種の中では、意外な産地かもしれません。岡山県での栽培量は、令和元年産は2,753トンでしたが、令和2年産は1,844トンに激減しました。新型コロナの影響もあるかもしれませんが、その結果、秋田酒こまちに栽培量を抜かれる結果となりました。
雄町で造られたお酒は、味に幅のある個性的なお酒になると言われています。
都道府県別の生産品種
代表的な酒米を見てきましたが、次は都道府県毎の代表的な酒米を見ていきましょう。農林水産省が公表している「令和2年産米の農産物検査結果(確定値)」を元に、各都道府県で最も検査量の多い一覧表を作成しました。自分が住んでいる都道府県の主要酒米は知っておきたいと思うので是非チェックしてみてください!
北海道・東北地方
北海道 | 吟風 |
青森県 | 華吹雪 |
岩手県 | 吟ぎんが |
宮城県 | 蔵の華 |
秋田県 | 秋田酒こまち |
山形県 | 出羽燦々 |
福島県 | 夢の香 |
まずは、北海道地方と東北地方からですが、北海道では吟風が最も栽培されています。他には「彗星」や「きたしずく」と言った北海道オリジナルの品種も栽培されています。昔は北海道の米は、スズメまたぎと言って、スズメが見向きもしない米と言われていたそうですが、近年は品質が向上して、上質な酒米が栽培されるようになったそうです。
東北地方については、山田錦の栽培適性地ではないためか、全ての県でオリジナルの品種となっており、先ほど紹介した主要酒米の勢力は弱いのが特徴になっています。
関東地方
茨城県 | ひたち錦 |
栃木県 | 山田錦 |
群馬県 | 舞風、若水 |
埼玉県 | さけ武蔵 |
千葉県 | 五百万石 |
東京都 | なし |
神奈川 | 山田錦 |
関東地方では、主要酒米が代表品種になっている県も見られるようになりました。
北陸地方
新潟県 | 五百万石 |
富山県 | 五百万石 |
石川県 | 五百万石 |
福井県 | 五百万石 |
北陸地方は、見事に全ての県で五百万石が主要品種となっています。栽培適性が高いのと、日本海の食文化との相性が良いのかもしれません。
新潟の酒が淡麗辛口と呼ばれているのは、五百万石の味わいの特性も一因となっているのではないかと個人的には思っています。
東海地方
山梨県 | ひとごこち |
長野県 | 美山錦 |
岐阜県 | ひだほまれ |
静岡県 | 山田錦 |
愛知県 | 若水 |
三重県 | 山田錦 |
東海地方は、栽培適性に合わせて主要酒米が食い込みならがらも、県のオリジナル性を出そうとしているところはオリジナルの品種になっているという印象です。
近畿地方
滋賀県 | 山田錦 |
京都府 | 祝 |
大阪府 | 山田錦 |
兵庫県 | 山田錦 |
奈良県 | 露葉風 |
和歌山 | 山田錦 |
近畿地方になると、山田錦を主要栽培としている県が増えました。西日本から栽培適性が高まることが伺えます。
京都は一度、途絶えた品種である「祝」を復活させ、「祝」に力を入れているため、この品種がメインとなっています。
中国地方
鳥取県 | 山田錦 |
島根県 | 五百万石 |
岡山県 | 山田錦 |
広島県 | 八反錦1号 |
山口県 | 山田錦 |
中国地方の主要栽培品種は、山田錦となっています。広島県だけは、独自の品種である八反錦1号がオリジナルの品種となっています。山口県は、旭酒造(獺祭)のお膝元ということもあり、山田錦の栽培が多いです。
四国地方
徳島県 | 山田錦 |
香川県 | 山田錦 |
愛媛県 | しずく媛 |
高知県 | 吟の夢 |
四国地方も、山田錦の栽培が多いですが、愛媛県と高知県はオリジナル品種になっています。愛媛県は、品種名からもブランドを意識しているのが伝わってきます。
九州・沖縄地方
福岡県 | 山田錦 |
佐賀県 | 山田錦 |
長崎県 | 山田錦 |
熊本県 | 山田錦 |
大分県 | 山田錦 |
宮崎県 | 山田錦 |
鹿児島 | なし |
沖縄県 | なし |
九州地方は見事に全ての都道府県で山田錦が主要栽培品種となっています。基本的に九州は焼酎文化なので、県のオリジナル品種が発展しなかった影響があると思います。
焼酎文化の九州ですが、福岡県と佐賀県は他県と同じくらい日本酒メーカーの力がある印象です。
自分の住んでる地域で栽培されている品種はチェックできましたでしょうか。地元で栽培されているお米で造られたお酒を飲むことで、お米の地産地消にも繋がるので、是非チェックしてみてください!
酒米が違う日本酒の飲み比べ
左から山田錦、五百万石、美山錦のお酒
実際に、酒米が違う日本酒の飲み比べをしていこうと思います。お酒は酒米以外の要素でなるべく印象が変わらないように、精米歩合やアルコール度数は近いものを選んでみました。
城陽 純米吟醸55 無濾過生原酒/城陽酒造株式会社(京都府城陽市)
最初は、山田錦のお酒をテイスティングしてみましょう。 香りは、上品でふくよかな印象で、スケール感を感じます。また、新酒らしい青竹のような印象があります。
味わいは、甘味と酸味がバランス良く感じられ、後から苦味でグッと締め上げられるような印象があり、後味のキレが非常に良いです。いわゆる辛口タイプと呼ばれるお酒になると思います。お酒自体のボリューム感があり、伸び代を感じる味わいで、綺麗で雑味がありません。
食中酒に向いているお酒だと思います。このスケール感に合わせて、脂の乗ったお刺身を塩で食べて合わせたいと思いました。お酒も料理もグッと引き立つように感じます。 兵庫県産の山田錦が使用されています。
羽根屋 純米吟醸 煌火(きらび)生酒/富美菊酒造(富山県富山市)
続いては、五百万石のお酒をテイスティングしていきましょう。 香りは、甘い印象があります。香りのイメージの通り甘味主体のお酒でした。ややマスカット系のフルーティさを感じます。
甘味主体ではあるものの全体的に収まり良くスッキリとした印象があります。また、ごく僅かにガス感を感じ、栓を開ける時にもガス圧があります。 ラベルに記載はありませんが、富山県産の五百万石が使用されています。甘めに造られているお酒ではありましたが、五百万石の特徴と言われているスッキリとした味わいは感じることができました。
小左衛門 特別純米 しぼりたて 香露酵母/中島醸造株式会社(岐阜県瑞浪市)
最後に美山錦のお酒をテイスティングしてみましょう。 華やかな香りで、いわゆる香り系のお酒です。マスカット系の爽やかな香りを感じます。
味わいは、甘味主体で、ややトロリとした口当たりです。トロリとした印象からボリューム感を感じ、苦味でフィニッシュします。全体的に優等生な印象ですが、味わいは地味な印象があります。 長野県産の美山錦が使用されています。
酒米の飲み比べのまとめ
日本酒の味わいは、酒米によって大きく決まるわけではないですが、ざっくりとした酒米の味わいの特性は感じることができました。特に、山田錦の「城陽 純米吟醸55 無濾過生原酒」は、山田錦らしいふくよかで奥行きがあって、伸びのある味わいを感じることができました。
みなさんも酒米の味わいを感じながら日本酒を楽しんでみましょう!
Profile
ムラヤマ
365日ずっと日本酒のことを考えている日本酒好き。主に熟成酒と滋賀酒が好みです。日本酒文化の面白さを伝えていきます。J.S.A SAKE DIPLOMA 記事の料理は、某大手中食企業で11年間、商品開発をしていた料理家の彼女がレシピの考案と調理を行っています。