モダンクラシックな「山廃仕込み」の日本酒とは?製法や名称の由来、味わいについて解説

濃醇でコクのある味わいが魅力の、山廃仕込み(やまはいしこみ)の日本酒。山廃とは酒づくりのベースとなる「酒母(しゅぼ)」をつくる製法のひとつです。

この記事では山廃仕込みの日本酒の製法や味わい、「山廃」の名称の由来について解説します。

日本酒の酒母づくりとは

酒母造り 酒母は「酛(もと)」とも呼ばれます。酒母をつくる製法は、大きく分けると速醸酛(そくじょうもと)と生酛(きもと)の2種類です。どちらも水、麹、蒸し米を主な原料とし、乳酸を利用して優良な酵母を培養・増殖させて酒母をつくります。山廃は生酛系に属し、正式名称は「山卸廃止酛(やまおろしはいしもと)」です。

それぞれの製法について解説します。

酒母づくり製法①「生酛」

生酛は酒蔵の壁や天井、空気中に存在する乳酸菌を利用して酒母をつくります。江戸時代に確立した伝統的な製法です。

酒づくりは解放状態でおこなうので雑菌が混入するリスクがあります。麹と蒸米と水だけでつくると雑菌が繁殖し、発酵が進まないまま腐ってしまいお酒ができません。そこで乳酸菌を取り入れて乳酸を発生させ、酸性の環境をつくって雑菌の繁殖をおさえながら酵母を増殖させます。 酒母造り 温度や衛生面の管理も要する繊細な工程です。乳酸菌という言葉すらない江戸時代においては、経験から得た知識と感覚でこの工程をおこなっていました。

乳酸で雑菌を抑えながら酵母を育てたら、次は「山卸(やまおろし)」をおこないます。「酛すり」とも呼ばれる、麹や蒸し米を櫂棒(かいぼう)で擦りつぶす作業です。 日本酒_山廃仕込 山卸は冬の寒い時期に深夜から早朝にかけて、約1ヶ月間おこないます。1日に何度もかき回し擦りつぶす重労働です。熟練した技術も必要であるため生酛づくりの日本酒は大量生産が難しく、市場に出回る数は多くありません。

酒母づくり製法②「山廃」

山廃の正式名称は「山卸廃止酛(やまおろしはいしもと)」です。読んで字のごとく、生酛づくりで一番大変な工程である山卸を廃止したことが名称の由来になりました。

山卸は米のでんぷんをすりつぶし、糖化を早める目的でおこなわれます。しかし1904年に設立された国立醸造試験所(現在の独立行政法人 酒類総合研究所)の研究の結果「山卸の工程の有無では酒母に成分の違いがない」と1909年に証明されました。 醸造試験所

醸造試験所 画像出典:酒類総合研究所 沿革

原料である水、麹、蒸し米を一度に投入せず、水と麹だけを入れて酵素が溶け出てから蒸し米を入れると、山卸をしなくても「麹から溶け出す酵素の力で米が溶けて糖に変わる」と判明したのです。その後は山廃での酒母づくりを採用する酒蔵が増えていきました。

酒母づくり製法③「速醸酛」

速醸酛は生酛や山廃と違い、人工的に培養された乳酸を使用して酒母をつくる製法です。 現代の酒母づくり製法の主流で、1910年に国立醸造試験所が開発しました。

生酛や山廃での酒母づくりに約1ヶ月はかかるのに比べて約2週間で完成するため、時間と労力が大幅に削減できます。酒蔵に自生する乳酸菌を利用する場合、乳酸が増える前に雑菌が増殖してしまう可能性がありますが、人工の乳酸を添加すればその心配もありません。 山廃仕込み_木桶 非常に画期的な製法である速醸酛の登場によって質の高い日本酒が安定して製造できるようになり、酒づくりの技術も向上しました。現在流通している日本酒の約9割が、速醸酛でつくられていると言われています。

しかし天然由来の乳酸や酵母でしか出せない味わいがあり、近年は生酛づくりや山廃仕込みを復活させる酒蔵も増えています。

山廃仕込みの日本酒は「クラシック山廃」と「モダン山廃」がある

山廃仕込みの日本酒 酒蔵や原料、製法によって異なりますが、山廃仕込みの日本酒は複雑ながら濃醇で、酸味も強く感じられる骨太な味わいのものが多いです。これは昔ながらの山廃仕込み「クラシック山廃」の特徴。コクが豊かで力強い味わいに魅了されるファンは多くいますが、日本酒に馴染みの薄い方は飲みにくさを感じる場合もあります。

初めて山廃仕込みの日本酒を飲む方には「モダン山廃」がおすすめ。山廃仕込みに現代の技術を融合させた、革新的な製法でつくられるお酒です。クラシック山廃よりも酸味がおさえられ、フレッシュで柔らかな旨味と軽快なキレが味わえます。

山廃仕込みの日本酒の味わいとは?おすすめは「常温」と「ぬる燗」

山廃仕込の日本酒 山廃仕込みの日本酒を飲んでみました。今回選んだのは株式会社車多酒造の『天狗舞 山廃仕込純米酒』です。車多酒造は製造する日本酒の多くを山廃仕込みで醸し、味わい豊かでキレの良い日本酒を目指しています。

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「クラシック山廃」の骨太な味わいの純米酒は、常温とぬる燗で味わうのがおすすめです。それぞれの温度帯で飲んだときの味わいの特徴と変化を紹介します。

常温で飲む山廃の味わい

酒器に注いでみると、綺麗な山吹色が広がりました。公式サイトには「良質な米と水を用い、丁寧に醸したお酒をじっくりと熟成させた時、日本酒は山吹色に色付きます※」と書かれていました。

※公式サイト「 天狗舞の酒造り 山吹色の酒」より引用 山廃仕込の日本酒 少し熟成感のある個性的な香りは、これぞクラシック山廃といった風格をただよわせています。

香りから想像していたよりもまろやかな味わいで「飲みやすい!」と思わず声に出してしまいました。山廃らしい力強さは感じますが、ほどよい熟成感と酸味のバランスが良く、いろいろな料理と合わせやすい温度帯です。上品な旨みもしっかりと感じられました。

ぬる燗で飲む山廃の味わい

温めたお酒を燗酒(かんざけ)といいます。よく耳にする熱燗は50度以上で、ぬる燗はだいたい40℃前後に温められた状態です。

温めると香りが立って味もまろやかになり、旨みを感じやすくなります。 山廃仕込の日本酒 常温で飲んだときよりも、山廃特有の濃厚で奥行きのある香りを感じました。お酒全体のボリューム感が増し、豊かなコクと旨みがより強く引き出されます。

酸味が抑えられて、まろやかさや甘みも増した印象です。米の旨味も、常温時よりもしっかり感じられます。山廃らしさを味わうなら、常温よりもぬる燗がおすすめです!

もう少し温度を上げると、キレのある喉越しやどっしりした味わいが強調されます。

山廃仕込みのまとめ:進化し続けるモダンクラシック製法!おすすめは「ぬる燗」

最後にこの記事のポイントをまとめます。

  • 山廃仕込みは明治時代に確立した伝統的な製法
  • 現代でも山廃仕込みにこだわってつくる酒蔵は多い
  • 山廃仕込みの日本酒らしさを味わいたいなら「ぬる燗」で

山廃仕込みは伝統的な製法でありながら、現代も愛される日本酒を数多く生み出しています。モダン山廃も登場し、山廃仕込みの日本酒は今後も進化し続けていくでしょう。

山廃仕込みらしい味わいを楽しむなら「ぬる燗」がおすすめですが、常温や冷酒のほうが飲みやすく感じるかもしれません。酒蔵によっても味わいの特徴が違うので、いろいろな銘柄を試してお気に入りの一本を見つけてください。

クラシック山廃とモダン山廃を飲み比べてみるのもおすすめです!

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成澤綾子

東京生まれ東京育ち、日本語と日本酒を愛するフリーランスです。 ライター、編集者、ディレクター業をメインに活動しています。魅力と情報を掛け合わせて伝える文章が得意です。

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